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大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)1726号 判決 1988年3月17日

甲事件原告・乙事件被告

島田商事株式会社

右代表者代表取締役

島田庸宏

右訴訟代理人弁護士

村林隆一

今中利昭

吉村洋

千田適

釜田佳孝

浦田和栄

谷口達吉

松本司

右輔佐人弁理士

小谷悦司

甲事件被告・乙事件原告

三星産業株式会社

右代表者代表取締役

道前信人

右訴訟代理人弁護士

品川澄雄

滝澤功治

右輔佐人弁理士

宮本泰一

主文

一  甲事件原告の請求をいずれも棄却する。

二  乙事件被告は、別紙目録(三)及び(四)記載の芯地を製造し、販売してはならない。

三  乙事件被告は、その所有する前項記載の芯地を廃棄せよ。

四  乙事件被告は同事件原告に対し、金五八五二万七九五九円及びこれに対する昭和六二年二月一九日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

五  訴訟費用は甲、乙事件を通じて甲事件原告(乙事件被告)の負担とする。

六  この判決の第二ないし第四項は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(甲事件)

一  請求の趣旨

1 甲事件原告(乙事件被告、以下「原告」という。)が業として別紙目録(一)及び(二)記載の芯地を製造、販売するについて、甲事件被告(乙事件原告、以下「被告」という。)が特許番号第一〇九九九〇五号の特許権に基づいて原告に対しその差止を求める権利を有しないことを確認する。

2 被告は、原告が製造、販売する前項の芯地が前項の特許権を侵害するものであるとの事実を、文書又は口頭で第三者に言いふらしてはならない。

3 被告は原告に対し、金五〇〇万円及びこれに対する昭和五九年六月一〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

4 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに右2、3項につき仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 主文第一項と同旨。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

(乙事件)

一  請求の趣旨

1 主文第二ないし第四項と同旨。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 被告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

なお、被告の昭和六二年二月一八日付訴の変更申立書による請求の拡張を許さないとの決定を求める。

第二  当事者の主張

(甲事件)

一  請求原因

1 被告は、左の特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。

発明の名称 芯地

出願日 昭和五一年一二月二八日

出願公告日 昭和五五年一〇月一三日

登録日 昭和五七年六月一八日

特許番号 第一〇九九九〇五号

2 本件特許権に係る特許発明の特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲は、別添特許公報(以下「本件公報」という。)該当欄記載のとおりである(右特許請求の範囲は二つの発明を含んでいるが、そのうち特許請求の範囲第1項に記載され、第2ないし第4項に実施態様の示されている発明を、以下「本件発明」という。)。

3 本件発明の構成要件及び作用効果は次のとおりである。

(一) 構成要件

(1) 所要の編巾一杯にわたり両側端に耳部を形成しながら往復編成してなる弾撥性の強い可撓性合繊モノフィラメント糸1と、

(2) 該糸層の一面においてウエール方向に配置され、各ウエールより1ウエール飛び以上離れたウエールとの間においてジグザグ状に横に振り、各ウエール間に振り糸の重合により重複部分2'を形成してなる任意の合繊フィラメント糸2と、

(3) 前記モノフィラメント糸1層に対し、前記糸2層と同一面又は他面の少なくとも一面において縦方向に挿入してなる適宜数のフィラメント糸3と、

(4) 前記各糸1、2、3を各ウエールにおいて縦方向に一体に編止めしてなるステッチ糸4とからなる

ことを特徴とする芯地。

(二) 作用効果

(1) 一台の経編機で一度に数十条も製編可能で、生産性の向上、生産コストの低減を図り得る。

(2) 合繊モノフィラメント糸は弾撥性があり、被着製品に適度の柔軟性並びに保形性を付与する。

(3) 経方向に配列されたフィラメントの挿入によつて強力及び保形性がより高められる。

(4) 両端がU字状屈曲で丸味をもつて連結しているため、従来のヒートカットしたものの様に鋭利で、布目を通して膚を刺すという心配もなく、その上、両端が経編目を編成する編糸と共に一緒に編み込み、止められて目ずれ防止の効果がある。

4 原告は、別紙(一)及び(二)記載の芯地(以下それぞれ「イ号製品」「ロ号製品」という。)を業として製造、販売している。

5(一) イ号製品の構造上の特徴

経糸、緯糸挿入の経編ラッセル組織により形成された芯地であつて、

(イ) 弾撥性の強い可撓性合繊モノフィラメント糸1が、緯糸として折返し屈曲状に帯体の長手方向に連続して挿入されており、この合繊モノフィラメント糸1が、帯体の上側辺部では側端部で折返されているが、下側辺部では側端から一ウエール内側に控えた位置で折返すと共に、この下側辺部の側端に柔軟な耳部挿入糸5を配設することにより、帯体の下側辺部全長にわたつて柔軟な耳部が形成されており、

(ロ) ウエール方向に配置され、各ウエールより一ウエール飛び離れたウエールとの間においてジグザグ状に横に振り、各ウエール間に振り糸の重合により重複部分2'を形成してなる柔軟な合繊フィラメント糸2と、ステッチ糸4とにより基本的に経編ラッセルの編組織が構成されていて、

(ハ) これに柔軟なフィラメント糸3が経糸として各ウエールとウエールとの間に一本宛直線状に挿入されている。

(ニ) ステッチ糸4によつて右の合繊モノフィラメント糸1と合繊フィラメント糸2の二本の糸が一体に編止めされているが、フィラメント糸3は、単に合繊モノフィラメント1と合繊フィラメント糸2との間に挿入されているだけである。

(ホ) 経糸挿入糸3中、上部三本のみ熱収縮性の糸が使用されている。

(二) ロ号製品の構造上の特徴

経糸、緯糸挿入の経編ラッセル組織により形成された芯地であつて、

(イ) 弾撥性の強い可撓性合繊モノフィラメント糸1が緯糸として折返し屈曲状に帯体の長手方向に連続して挿入されており、この合繊モノフィラメント糸1が、帯体の上側辺部では側端部で折返されているが、下側辺部では側部から一ウエール内側に控えた位置で折返すと共に、この下側辺部の側端に柔軟な耳部挿入糸5を配設することにより、帯体の下側辺部全長にわたつて柔軟な耳部が形成されており、

(ロ) ウエール方向に配置され、各ウエールより一ウエール飛び離れたウエールとの間においてジグザグ状に横に振り、各ウエール間に振り糸の重合により重複部分2'を形成してなる柔軟な合繊フィラメント糸2と、ステッチ糸4とにより基本的に経編ラッセルの編組織が構成されていて、

(ハ) これに柔軟な熱収縮性のフィラメント糸3が経糸として帯体の上側端部のウエールとウエールとの間に一本宛計三本のみ直線状に挿入されている。

(ニ) ステッチ糸4によつて、右の合繊モノフィラメント糸1と合繊フィラメント糸2の二本の糸が一体に編止めされているが、経糸挿入糸である柔軟なフィラメント糸3は、単に合繊モノフィラメント糸1と合繊フィラメント糸2との間に挿入されているだけである。

6(一) イ号製品は、本件発明の技術的範囲に属しない。

(1) 本件発明の構成要件(1)は「所要の編巾一杯にわたり両側端に耳部を形成し」ているのに対し、イ号製品においては、上側辺部では側端部で折返しているが、下側部では側端から一ウエール内側に控えた位置で折返し、この下側辺部では柔軟な耳部挿入糸5を配設することにより柔軟な耳部を形成している。したがつて、イ号製品は、本件発明の構成要件(1)を充足しない。

(2) 本件発明の構成要件(4)は「前記各糸1、2、3を各ウエールにおいて縦方向に一体に編止めしてなるステッチ糸4」であるが、イ号製品においては、ステッチ糸4によつて合繊モノフィラメント糸1と合繊フィラメント糸2の二本の糸が一体に編止めされているだけであつて、フィラメント糸3は、単にウエールとウエールの間で合繊モノフィラメント糸1と合繊フィラメント糸2との間に挿入されているだけである。したがつて、イ号製品は、本件発明の構成要件(4)を充足しない。

(3) 以上の結果、イ号製品は、本件発明の期待するすべての作用効果を奏しない。

(二) ロ号製品は、本件発明の技術的範囲に属しない。

(1) ロ号製品は、イ号製品と同様本件発明の構成要件(1)及び(4)を充足しない。

(2) したがつて、ロ号製品は、本件発明の期待するすべての作用効果を奏しない。

7 原・被告は、いずれも芯地の製造、販売を業とする会社であり、競争関係にあるところ、被告は、昭和五九年二月一五日繊研新聞に謹告と題し、原告の製造、販売する芯地(イ号製品、ロ号製品)が本件発明を侵害するものであり、かつ「再三の警告にもかかわらず侵害行為の中止がないので残念ながら特許権確立の為に製造販売差し止、損害賠償の法的手段を講じる事となりました」との内容の広告をした。また、被告は、昭和五九年三月一〇日にイ号製品、ロ号製品が本件特許権を侵害する旨の手紙を被告の得意先は勿論原告の得意先に対しても送付し、さらに原告の得意先に対し口頭又は電話で同様の事実を告知した。

しかし、前記のとおり、イ号製品、ロ号製品は本件発明の技術的範囲に属しないから、被告の右各行為は原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を陳述、流布するものであり、これによつて原告の営業上の利益が害された。

8 原告は、被告の前項記載の行為により次の損害を被つた。

(一) 原告は、被告の前記行為により、原告の得意先に対し原告が一切の責任を負う旨の誓約書を作成交付せざるを得なくなり、その金銭的出捐を含め五〇〇万円以上の無形損害を被つた。

(二) 原告は、イ号製品及びロ号製品を昭和五八年度は一六三万七四一二メートル販売し、昭和五九年度はその七パーセントアップの一七五万二〇三〇メートル、昭和六〇年度は昭和五九年度の七パーセントアップの一八七万四六七二メートルの販売があるものと計画していた。しかるに、被告の前記行為により昭和五九年度は一四二万五八一四メートル、昭和六〇年度は一〇六万六九八〇メートルしか売れなかつた。したがつて、被告の前記行為による売上減は昭和五九年度が三二万六二一六メートル、昭和六〇年度が八〇万七六九二メートルとなるところ、一メートル当りの平均売値は二八円であり、決算歩留率は昭和五九年度が2.504パーセント、昭和六〇年度が2.659パーセントであるから、原告は、合計八三万〇〇五八円の純利益を失つた。

9 よつて、原告は被告に対し、被告が本件特許権に基づき原告に対しイ号製品、ロ号製品の製造、販売を差止める権利を有しないことの確認、不正競争防止法に基づき虚偽事実陳述流布の差止、不法行為に基づく損害賠償として無形損害金五〇〇万円の内金四一六万九九四二円及び得べかりし利益の喪失分金八三万〇〇五八円の合計金五〇〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五九年六月一〇日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1ないし3の事実は認める(ただし、本件発明の作用効果は請求原因3(二)記載のものだけではない。乙事件請求原因3(二)参照。)。

2 同4のうち、原告が別紙(一)添付の「イ号図面」及び別紙(二)添付の「ロ号図面」に示されている編組織の各芯地を業として製造、販売していることは認める。

しかし、別紙(一)の「イ号説明書」及び別紙(二)の「ロ号説明書」にそれぞれ記載されている「図面の詳細な説明」は、いずれも、合繊モノフィラメント糸1と合繊フィラメント糸2とは「一体に編止め」されているが、柔軟なフィラメント糸3は、単に挿入されているだけにすぎないとしている点で誤つている。右両図面に示されている各芯地は、ステッチ4によつて合繊モノフィラメント糸1と合繊フィラメント糸2とを編み合わせることによつて、両者の間に挿入されている柔軟なフィラメント糸3と共に、三者を一体に編止めしているからである。

したがつて、別紙(一)の「イ号説明書」及び別紙(二)の「ロ号説明書」は、それぞれ別紙(三)、(四)のとおり改められるべきである。

なお、別紙(三)、(四)添付の両説明書においては、右の他、別紙(一)、(二)の両説明書では「柔軟な耳部」とされていたのを、「一ウエール分の柔軟な耳様の編組織」と改めた。これは、「一ウエール分」とすることによつて記載をさらに正確にし、また、該部分は「耳様の編組織」ではあるが「耳部」としての役割を果していないので、「耳部」との表現を避けたことによるものである。

5 同5(一)のうち、(ニ)は争い、その余は認める(ただし、(イ)中、「耳部」とあるのは、正確には「一ウエール分の耳様編組織」とすべきである。)。

(二) 同5(二)のうち(ニ)は争い、その余は認める(ただし、(イ)中、「耳部」については前同様。)。

6 同6(一)、(二)は争う。

7 同7のうち、原・被告がいずれも芯地の製造、販売を業とする会社であり、競争関係にあること、被告が昭和五九年二月一五日繊研新聞に原告の製造、販売する芯地について原告主張の広告をしたことは認めるが、その余は否認する。被告が右広告の対象とした芯地は、イ号製品、ロ号製品ではなく、柔軟な耳様の編組織が芯地の両側辺に付加された構造の旧製品である。

8(一) 同8(一)は争う。

(二) 同8(二)のうち、原告がイ号製品及びロ号製品を昭和五八年度ないし昭和六〇年度に原告主張の数量販売したことは認めるが、その余は争う。

三  被告の主張

1 本件発明の構成要件は、特許請求の範囲に記載のとおり、

(1) 特定の要件を具えた「可撓性合繊モノフィラメント糸1」と、

(2) 特定の要件を具えた「合繊フィラメント糸2」と、

(3) 特定の要件を具えた「フィラメント糸3」と、

(4) 特定の要件を具えた「ステッチ糸4」と

「からなることを特徴とする芯地」である。

一方、イ号製品及びロ号製品は、

(a) 本件発明の特許請求の範囲に記載されている諸要件をことごとく具備する編組織を本体とし、

その下側辺に、

(b) 一ウエール分の柔軟な耳様の編組織を付加した芯地であつて、かつ、本件公報の発明の詳細な説明の項に記載されている本件発明の芯地の奏する作用効果をすべて具えているから、イ号製品、ロ号製品はその芯地の中に本件発明が一体性を失うことなく含まれており、本件発明の構成要件をことごとく具え、これに一ウエール分の柔軟な耳様の編組織という要素を付加したものにすぎず、本件発明を利用するものであり、特許法七二条に該当する。

イ号製品、ロ号製品の下側辺に付加されている一ウエール分の柔軟な耳様の編組織は、後記のとおりイ号製品、ロ号製品に芯地としての何らの効果ももたらすものではないが、仮に付加された一ウエール分の編組織が何らかの効果をもたらすとしても、イ号製品、ロ号製品は、本件発明の芯地の編組織を主体とし、かつ、本件発明の芯地の奏する作用効果をすべて具えており、一ウエール分の付加された編組織によつて生じる効果は、単に付加的な効果にすぎないから、かかる付加的効果は、イ号製品、ロ号製品が本件発明を利用するものであるとすることを妨げるものではない。

2 本件発明の構成要件(1)について

(一) 原告は、イ号製品及びロ号製品は、本件発明の構成要件(1)のうち「所要の編巾一杯にわたり、両側端に耳部を形成する」という要件を充足しないと主張する。

イ号製品、ロ号製品の下側辺の全長にわたつて形成されている一ウエール分の柔軟な耳様の編組織は、別紙(三)、(四)((一)、(二)も同じ)添付のイ号図面、ロ号図面を見れば明らかなごとく、「柔軟な挿入糸5」と、一ウエール分の「合繊フィラメント糸2」と、一ウエール分の「ステッチ糸4」とによつて編成されている。この一ウエール分の柔軟な耳様の編組織は、芯地の本体から離れないように右一ウエール分の「合繊フィラメント糸2」をジグザグ状に横に振ることによつて芯地の本体につながれているが、右各糸は、いずれも芯地の本体を形成している糸とは別個の糸である。したがつて、イ号製品、ロ号製品から右三種の糸を取り除いても、芯地の本体を形成している編組織は崩れることはない。

イ号製品、ロ号製品から右三種の糸を取り除いた残部、すなわちイ号製品、ロ号製品の芯地の本体が「所要の編巾一杯にわたり両側端に耳部を形成しながら往復編成してなる」という、本件発明の「可撓性合繊モノフィラメント糸1」に加えられている要件を充足していることは明らかである。

原告は、本件発明は、耳部に「可撓性合繊モノフィラメント糸1」のU字状屈曲端が露出することを必須の構成要件としていると反論しているが、本件明細書には、どこにも「可撓性合繊モノフィラメント糸1」が露出していなければならないということは記載されていない。

(二) 本件明細書に記載されている「可撓性合繊モノフィラメント糸1」の効果は、その両端がU字状屈曲で丸味を持つて連絡しているため肌を刺激しない(本件公報8欄三二〜三五行)という効果と、両端が経編目を編成する編糸、すなわち「合繊フィラメント糸2」及び「ステッチ糸4」と一緒に編み込まれているから目ずれを生じないという効果(本件公報8欄三五〜三七行)とであるが、このような効果は、イ号製品、ロ号製品のごとく、その一側辺に耳様の編組織が付加されている芯地においても、等しくもたらされる効果である。

本件発明において、「可撓性合繊モノフィラメント糸1」に加えられている「所要の編巾一杯にわたり両側端に耳部を形成しながら往復編成してなる」という要件が右のごとき効果をもたらすものである以上、本件発明の構成要件を具えた編組織を本体とし、その下側辺(或いは上側辺又はその両側辺)に別の編組織を付加した芯地も、本件発明の構成要件をことごとく具えているといわねばならない。換言すれば、本件発明は、その芯地の側辺に何らかの別個の編組織を付加することを決して排除していない。

(三) イ号製品、ロ号製品の下側辺部の全長にわたつて存在する一ウエール分の耳様の編組織は、イ号製品、ロ号製品が芯地として用いられるに当つて何らの効果ももたらすものではない。すなわち、イ号製品、ロ号製品は、「ベルト芯」として用いられる芯地であるところ、本件明細書が従来の芯地について「これらのものは長手方向伸縮に欠け、かつ復元性、保形性に乏しく、着用、洗濯により折れて復元しないか、保形性を失うことが多く、又、外めくれ現象を起こし見苦しい欠点を有していた。」(本件公報3欄一一〜一七行)と述べ、本件発明について、「本発明は、……適度の柔軟性と長手方向に伸縮性ならびに復元性を有すると共に、体形に即したフィット性があり、かつ保形性に優れ、外めくれ防止に顕著な効果を有する芯地を提供することを目的とする」(同欄三七〜四一行)と述べているように、芯地、特にベルト芯は、ベルト全体に保形性を与え、ベルトの腰折れを防ぐと共に、ベルト側端部の外めくれを防止し、しかも、長手方向伸縮性を有することが要請される。イ号製品、ロ号製品の芯地の一側辺に付加されている耳様の編組織は、ベルト芯に要請されるかかる基本的な作用効果に何ら寄与するところがない。しかも、ベルト芯を用いてベルト付のスカート或いはスラックスを製作しこれを着用した場合、運動によつて身体に最も接触し摩擦する部分はベルトの上辺であつて、ベルトの下辺ではない。したがつて、下側辺に柔軟な耳様の編組織の部分を設ける必要性は全く存在しない。

(四) また、スラックスやスカートのベルト作成に繁用される一般的なベルト作製法は、通称四つ折り方式と称せられる方法であつて、該方法では、ベルト芯が保形性を有していることを利用して、その上下両側辺を基準として、ベルト布(ベルト芯を包み込む布)に折り目をつけるという操作が行われる。その際、ベルト端をきれいな直線状に仕上げるためには、ベルト布はベルト芯の側辺を基準に用いて引張り気味にベルト芯裏側に各々折り返される。したがつて、ベルト芯の側辺部に一ウエール分の柔軟な耳様の編組織があると、該部分は保形性がないので、保形性のある本件発明の編組織の部分の側辺、すなわち、モノフィラメント糸1の側端の耳部が折り返し線となつて折り目がつくことになり、この折り目に従つて縫製すると、ベルト芯側辺に存在する柔軟な耳様の編組織は、ベルト布と共に折返されて縫製される。すなわち、実質的には合繊モノフィラメント糸端がベルト芯の耳部となつてベルト芯としての作用効果を奏するのであつて、原告が付加している柔軟な編組織は無用の介在物となり、かえつてベルトの端部が不必要に厚くなり、完成したベルトの品質を落とす欠点を生じることになるのである。

(五) 原告は、イ号製品、ロ号製品は、下側辺部全長にわたつて一ウエール分形成されている柔軟な耳様の編組織が存在することによつて、本件発明に比して容易に所望の扇形弧状に変形することができる効果があると主張し、その根拠として甲第四号証を援用している。しかし芯地の湾曲効果は、本件明細書の発明の詳細な説明の項にも明記されているとおり(本件公報4欄二一〜三三行、6欄一〜一二行、6欄四三〜7欄三行、第3図、第7図参照)、本件発明の効果の一つであり、イ号製品、ロ号製品特有の効果ではない。また、芯地に湾曲変形形状を付与することは、芯地を構成する各糸の熱収縮率の差を利用することによつてもなし得るが、芯地を編み上げる際、編糸に加える張力を調整することによつても可能であるし、編組織の密度も湾曲変形効果に影響するのであり、イ号製品、ロ号製品における耳様の編組織の付加は、得られる芯地の湾曲変形度に有意の差を与えるものではない。そもそも、芯地の湾曲変形は、芯地全体が湾曲変形することによつて生じるのであるから、たとえ、イ号製品、ロ号製品に付加されている下側辺の一ウエール分の柔軟な耳様の編組織が伸長しようとしても、その伸長が、本体たる本件発明の編組織によつて制御され、芯地全体の湾曲変形は、結局本体たる本件発明の編組織の奏する湾曲変形の程度を超えないことは自明である。

(六) イ号製品、ロ号製品は、右のとおり本件発明の芯地の編組織を利用するものであるが、これを編成するに当つても、本件発明の編組織の編成法を利用している。すなわち、本件発明の編組織を編成するように調整された編機のニードル列の一端に一本だけニードルとオサを追加し、該編機を稼動させることによつて、本件発明の編組織の芯地の一側辺に一ウエール分の耳様の編組織の付加されたイ号製品、ロ号製品が得られるのであつて、かかる製法によつてイ号製品、ロ号製品が得られることからみても、イ号製品、ロ号製品は、本件発明を利用するものである。

3 本件発明の構成要件(4)について

原告は、イ号製品、ロ号製品ではステッチ糸4がフィラメント糸3を編止めしていないから、イ号製品、ロ号製品は本件発明の構成要件(4)を欠いていると主張する。

右構成要件(4)は、「前記各糸1、2、3を各ウエールにおいて縦方向に一体に編止めしてなるステッチ糸4」とあるとおり「ステッチ糸4」に関する要件を記述したものであるから、「各ウエールにおいて縦方向に一体に編止めしてなる」ということが、ステッチ糸の編成の態様を示していることは明らかである。したがつて、「各ウエールにおいて」とはステッチ糸4の配設される位置を示し、「縦方向に」とはステッチ糸4の編成の方向を示し、「一体に編止めしてなる」がステッチ糸4の編成の態様を示していることは多言を要しない。一方、「フィラメント糸3」に加えられる要件について、特許請求の範囲は、「前記モノフィラメント糸1層に対し前記糸2層と同一面又は他面の少なくとも一面において縦方向に挿入してなる適宜数のフィラメント糸3」と記載していて、フィラメント糸3は、モノフィラメント糸1で形成される層と合繊フィラメント糸2で形成される層との層間(中間)であつてもよいし、右二層の外側であつてもよいという配設場所と、縦方向に挿入するという配設の方向は規定しているが、各ウエールとの位置関係は特に規定していない。したがつて、「フィラメント糸3」に必要とされている右要件だけからいえば、フィラメント糸3の挿入の態様としては、モノフィラメント糸1の層と合繊フィラメント糸2の層との中間に在つて、各ウエール上に挿入される場合とウエール間に挿入される場合、右二層の外側に在つて、各ウエール上に配設される場合とウエール間に配設される場合の四種が文理上考えられる。そして、右四つの場合のうちで、各ウエール上に挿入される場合には、そのフィラメント糸3は、二層間に挿入される場合にも二層の外側に配設される場合にも、「各ウエールにおいて縦方向に」編成されるステッチ糸4によつて他の糸1、2と共にに「一体に編止め」ることができるが、フィラメント糸3が二層の外側に配設される場合には、フィラメント糸3がウエール間に置かれたのでは、「各ウエールにおいて縦方向に」編成されるステッチ糸4によつて他の糸1、2と共に「一体に編止め」ることができないから、この場合は除かれることになる。

イ号製品、ロ号製品のごとく、フィラメント糸3が二層間のウエールの中間に配設される場合には、ステッチ糸4が「各ウエールにおいて縦方向に」編成されることによつて、モノフィラメント糸1によつて形成される層と、合繊フィラメント糸2によつて形成される層とを編み合わすと、それによつてウエールの中間に配設されているフィラメント糸3をも緊締することになり、フィラメント糸3は、モノフィラメント糸1と合繊フィラメント糸2と共に編み止められるのである。なお、ステッチ糸4が「編止める」とは、ステッチ糸が編目を形成することによつて他の糸を「止める」こと、すなわち、他の糸を緊締することをいう。

したがつて、イ号製品、ロ号製品は、「一体に編止める」という本件発明の要件を充足する。

また、本件明細書の第1図及び第4図にも、イ号製品、ロ号製品と同様に、ウエールとウエールとの間に「フィラメント糸3」が挿入された態様の編組織が示され、かつ説明が加えられている(本件公報6欄二五〜二九行)。

4 先行技術について

(一) 実用新案出願公告昭五八―四九五〇号公報(甲第三号証)記載の考案は、本件発明に対し先願としての地位を有するものであるが、被告は、本件発明の技術的範囲が、甲第三号証の考案に係る芯地をも包含するごとく解釈し、主張しているものではない。

甲第三号証には、「本考案は衣料用芯地に関するものであり、芯地に必要な腰の強さ及びベルト等に使用するために必要な長手方向の伸縮性を有し、かつ耳端が柔軟性を持つ衣料用芯地を提供せんとするものである。」(1欄二六〜二九行)とその考案の対象たる芯地を説明しており、改良の対象とした従来の衣料用芯地についての欠点を説明するに当つて、縦糸に「ナイロン等の加工糸」や「ポリウレタン等のカバーリング糸を用いた芯地」を先行技術として説明を加えており(1欄三〇行〜2欄九行)、これらはすべて伸縮性糸である。甲第三号証の考案は、従来の織組織の、伸縮自在の芯地を編組織に変えると共に、伸縮性が大きくて着脱に当つて絶えず伸縮される結果、横糸の先端が生地から突出することになるのを避けるために、突出部を被覆する耳部を設けた考案である。

一方、本件明細書の発明の詳細な説明にも、本件発明が改良せんとした従来の芯地とその欠点とが記載されているが、そこに記載されている従来の芯地は、非伸縮性の織組織の芯地であり、そのような非伸縮性の芯地の持つ欠点が、本件発明における解決すべき課題として示されている(本件公報3欄一一〜三六行)。本件発明は、かかる非伸縮性の芯地の持つ欠点を改良することを課題として、これを解決した特定の編組織を有する非伸縮性の芯地の発明である。本件明細書の発明の詳細な説明には、「なお、伸縮性糸を用いて伸縮性のある被服の芯材としとフィット性を高めることも可能である。」(本件公報5欄三〇〜三一行)と記載されている。右にいう伸縮性糸とは、数パーセント程度伸長する糸が存在したので、そのようにわずか数パーセントでも伸長するような糸を用いて編成された本件発明の編組織を有する芯地が、本件発明の技術的範囲に属しないとされることを避けるために記載されたものであつて、該記載が存在することによつて、本件発明が特定の編組織を有する非伸縮性の芯地を対象とするという本件発明の本質が変るものではないし、また、甲第三号証の芯地や「バンロールXL―九一」のごとく長手方向に二倍以上も伸びる芯地が本件発明に含まれることになるものでもない。

イ号製品、ロ号製品の各下側辺に設けられている一ウエール分の柔軟な耳様の編組織は、イ号製品、ロ号製品の各芯地において有害無益であること前記のとおりであるが、イ号製品、ロ号製品は、甲第三号証の芯地と異なり非伸縮性の編組織を本体とする芯地であるから、イ号製品、ロ号製品について右のように主張することは、甲第三号証の芯地において芯地本体の両側辺に形成される耳部までが有害無益であることを意味するのではなく、本件発明と甲第三号証の考案とを同一視することになるものではない。

なお、本件発明の芯地と甲第三号証の芯地とでは、伸縮性の差異だけではなく、構成糸及び編組織の双方を異にしている。

(二) 原告は、「バンロールXL―九一」は本件発明の編組織と極めて近似した組織であると主張するが、「バンロールXL―九一」は、長手方向に二倍にも伸び縮みする芯地であつて、本件発明の芯地のごとく非伸縮性の芯地ではなく、両者の編組織も近似していない。

したがつて、「バンロールXL―九一」の芯地が仮に本件特許出願前公知であつたとしても、そのことによつて本件発明の技術的範囲に何らかの限定が加えられるべきものではない。

四  原告の反論

1 本件発明の構成要件(1)について

(一) 本件発明の構成要件(1)は、合繊モノフィラメント糸1が、「所要の編巾一枚にわたり両側端に耳部を形成しながら往復編成されたものであること」及び「弾撥性の強い可撓性を有するものであること」を要件としているものである。

ところで、本件発明は「芯地」に係るものであり、合繊モノフィラメント糸1、合繊フィラメント糸2、フィラメント糸3及びステッチ糸4による編組織を成すものであるから、右の「所要の編巾」とは、編成される当該芯地自体の巾であることに疑いはない。

そうすると、本件発明において、合繊モノフィラメント糸1は、弾撥性の強い可撓性のものであつて、かつ、(a)芯地の巾一杯にわたり往復編成され、(b)芯地の両側端に折返しによる耳部を形成したものであることが必須要件である。

しかして、右の技術的構成に基づき、本件発明は、「基層を構成する合繊モノフィラメント糸は弾撥性があり、被着製品に適度の柔軟性並びに保形性を付与せしめると共に、経方向に配列されたフィラメントの挿入によつて弾力及び保形性がより高められ、かつ基層は両端がU字状屈曲で丸味をもつて連結しているため、従来のヒートカットしたものの様に鋭利で、布目を通して膚を刺すという心配もなく、その上、両端が経編目を編成する編糸と共に一緒に編み込み、止められて目ずれ防止の効果も併せ有している。」(本件公報8欄二八〜三七行)という効果を奏する。

すなわち、本件発明が右の効果を奏するのは、合繊モノフィラメント糸1によつて芯地の基層を構成するものであり、その基層は両端がU字状屈曲で丸味をもつて連結しているからであり、したがつて、合繊モノフィラメント糸1に関する要件としては、前記(a)、(b)のように解しなければならない。

なお、「耳」とは「繊物・紙類または食パンなどの縁、またはその縁の厚くなつたところ」(広辞苑二一三一頁)を意味するから、本件発明の構成要件(1)の「耳部」とは、芯地の縁部分であると解しなければならない。そして、本件発明における「耳部」は、合繊モノフィラメント糸1を編巾一杯にわたり往復編成することによつて形成されるものであるから、結局、芯地の両側縁にて合繊モノフィラメント糸のU字状屈曲端により連続的に形成された「縁」部分をいう。したがつて、本件発明のモノフィラメント糸1が形成するU字状屈曲端は、芯地の縁(エッジ)に位置していることに疑いはなく、この意味で露出しているのである。

これに対し、イ号製品、ロ号製品は、モノフィラメント糸1を下側辺部において側端から一ウエール内側に控えた位置で折返し、この下側辺部に柔軟な耳部挿入糸5を配設したものである。

したがつて、イ号製品、ロ号製品において、モノフィラメント糸1は、(a)芯地の巾一杯にわたり往復編成されたものでなく、しかも、(b)下側辺部のU字状折返し屈曲端により芯地の側縁に耳部を形成するものでないから、本件発明の構成要件(1)を充足しない。

(二) 被告は、イ号製品、ロ号製品は、本件発明の編組織を本体として用い、その下側辺に一ウエール分の柔軟な耳様の編組織を付加したものであり、本件発明の構成要件をすべて具えているから、本件発明を利用するものであると主張する。

しかし、「利用」であるというためには、その前に、イ号製品、ロ号製品が本件発明の構成要件をそつくりそのまま具えていなければならないところ、イ号製品、ロ号製品は、耳部挿入糸5を含む全体として初めて「芯地」を成しており、この場合の「所要の編巾」とは、耳部挿入糸5を含んだ芯地の巾であるから、元々、モノフィラメント糸1が本件発明のように所要の編巾一杯にわたり往復編成されておらず、本件発明の構成要件をそのまま具えていない。したがつて、「利用」には該当しない。換言すれば、右の耳部挿入糸5は、イ号製品、ロ号製品の芯地自体の下側耳部を形成するために必須のものであり、被告が主張するような付加ではない。

(三) 被告は、「利用」であることの根拠として、イ号製品、ロ号製品の下側辺に設けられた一ウエール分の柔軟な耳様の編組織は有害無益であると主張する。

しかし、本件発明のように、モノフィラメント糸を編巾一杯にわたり往復編成し、耳部にモノフィラメント糸の屈曲端が露出すると、モノフィラメント糸は腰が強いため、ベルト用芯地として用いたときちくちくと肌を刺激する欠点があり、従来から当業者間で問題となつていた。イ号製品、ロ号製品にあつては、柔軟な耳部を形成することにより本件発明の右欠点を緩和したものである。また、イ号製品、ロ号製品は、合繊モノフィラメント糸1を下側部側端から一ウエール内側に控えた位置で折返すことにより、熱処理をして上部三本の経糸挿入糸3が熱収縮した際、下側端がモノフィラメント糸1で拘束されておらないため、本件発明に比較して容易に所望の扇形弧状に変形し得るという効果を奏するものであり(甲第四号証)、決して被告がいうような有害無益のものではない。

ちなみに、扇形弧状に変形する点について、本件発明は、糸の熱収縮率に差を設け、これにより熱処理後の芯地を扇形弧状に形成するものであるが(本件公報4欄二一〜三三行、6欄一〜一二行、同欄四四行〜7欄三行)、編巾一杯に合繊モノフィラメント糸を有している結果、熱収縮時に下側端がモノフィラメント糸で拘束され、扇形弧状に変形することを困難としているのに対し、イ号製品、ロ号製品は、合繊フィラメント糸を下側部側端から一ウエール内側に控えた位置で折返し、下側部側端には柔軟な耳部挿入糸5を配置している結果、熱収縮時に下側端がモノフィラメント糸1で拘束されず、柔軟な耳部挿入糸5によつて変形容易とされており、したがつて、容易に所望の扇形弧状に変形し得るのであり、本件発明より格段に優れている。

(四) 被告は、「利用」であることの他の根拠として、イ号製品、ロ号製品における下側辺の柔軟な耳様の編組織は、柔軟であるために縫製に当りベルト芯と共に折返されて縫製されるものであると主張する。

しかし、イ号製品、ロ号製品を使用するに際しては、ベルト芯の下端にベルト芯の厚みと表布の厚み分を足した程度の余白をおいてベルト表布を折返すものである。したがつて、イ号製品、ロ号製品の柔軟な耳部がベルト芯と共に折返されて縫製されることはあり得ず、被告の右主張は失当である。

(五) 被告は、イ号製品、ロ号製品を編組するため、本件発明の編組織を本体として、その一側辺に一ウエール分の柔軟な耳様の編組織を付加するに際し、本件発明の編組織を編成するように調整された編機に並べて取付けられているニードルの列の一端に一本のニードルとオサとを付加すれば足り、これによりイ号製品、ロ号製品を得ることができるものであるから、この点からしても本件発明の編組織を利用した芯地というべきであると主張する。

しかし、そもそも本件発明は「芯地」の発明であり、その製造方法や製造装置の発明ではないから、右の製造方法及び製造装置を議論することに意味はない。

また、製造装置に対し右のニードルとオサを付加するとはいつても、ニードル、オサ、シンカー等は一吋巾のブロック毎に各ポイントが鋳込まれており、鋳込み直しを必要とするものであるから、単なる付加で済むものではない。しかも、ニードル、オサ、シンカーには一吋巾の基台に各々等間隔に針が複数本櫛のように並べて植設されており、ニードルとオサの各々に一本の針を追加するといつても、その一本多いニードル、一本多いオサを特別に製作しなければならないのであり、既存のニードル、オサに針だけを一本追加することにより可能とされるものではない。結局、イ号製品、ロ号製品は、本件発明を実施するための製造装置自体を利用して製造し得るものでもないのである。

2 本件発明の構成要件(4)について

(一) 本件発明の構成要件(4)は、ステッチ糸4が、「各糸1、2、3を一体に編止めすること」、「右の編止めが各ウエールにおいてなされていること」及び「右の編止めが縦方向になされていること」を要件としているものである。そうすると、本件発明において、ステッチ糸4は、(a)合繊モノフィラメント糸1と合繊フィラメント糸2とフィラメント糸3の各糸を一体に編止めしたものであり、(b)編止めを各ウエール(編目列)において行つていることが必須要件である。

右の「編止め」とは、「経編目ステッチ4により編み込み編成されて止められる」(本件公報6欄二八〜二九行)の意味であり、したがつて、ステッチ糸4の編目に直接係わつて止められているとの意味に解しなければならない。

しかも、本件発明の編止めは、「各ウエールにおいて(ウエールとウエールとの間ではない)」行われているものである。ウエールとは縦方向の編目列のことであり、本件発明でいえばステッチ糸4により形成される編目列をいうのであるから、本件発明の特許請求の範囲の記載に基づく限り、各糸1、2、3のすべてがステッチ糸4により該ステッチ糸4の編目列において縦方向に一体に編止めされていなければならないのである。

これに対し、イ号製品、ロ号製品は、フィラメント糸3が各ウエール(編目列)とウエール(編目列)との間でステッチ糸4の編目に直接係わらないで、モノフィラメント糸1とフィラメント糸2との間に単に挿入されているにすぎない。

したがつて、イ号製品、ロ号製品において、ステッチ糸4は、(a)フィラメント糸3を何ら一体に編止めしておらず、(b)フィラメント糸3をステッチ糸4の各ウエールに配設したものでもないから、本件発明の構成要件(4)を充足しない。

(二) 被告は、本件発明の特許請求の範囲において、「フィラメント糸3」の要件について、「前記モノフィラメント糸1層に対し前記糸2層と同一面又は他面の少なくとも一面において縦方向に挿入してなる適宜数のフィラメント糸3」と記載していて、フィラメント糸3と各ウエールとの位置関係を限定していないと主張する。

しかし、本件発明は、特許請求の範囲に記載された各構成要件を相互に関連せしめ、ひとつの発明を構成したものである。したがつて、本件発明の特許請求の範囲の前記記載部分においてフィラメント糸3の配設場所を限定していないとしても、これに続く構成要件(4)の部分で「前記各糸1、2、3を各ウエールにおいて縦方向に一体に編止めしてなるステッチ糸4」と記載している以上、右記載により、フィラメント糸3の挿入個所が各ウエール上に位置していることを明確に限定しているのである。

(三) 被告は、「編止め」とは、ステッチ糸4が編目を形成することによつて他の糸を「止める」こと、すなわち他の糸を緊締するという意味であるから、イ号製品、ロ号製品において、ステッチ糸4が合繊モノフィラメント糸1の層と合繊フィラメント糸2の層とを緊締し、両層間のフィラメント糸3をも緊締する以上、本件発明の「編止め」の要件を充足すると主張する。

しかし、株式会社繊維技術ジャーナル発行の「経編技術問題集」83(甲第一四号証)に「下図の挿入糸(ニ)は、(イ)、(ハ)によつて作られる編地の表面に(ロ)の鎖編(ステッチ糸のこと)によつてその横振りの両端を止められている」と説明されているように、鎖編み(ステッチ糸)により「止める」とは、右に図示されたようにステッチ糸の編目によつて直接編み止めることを意味している。しかも、本件発明の特許請求の範囲においても、「各ウエール(ステッチ糸4により形成される編目)において一体的に編止める」と念を押して表現されており、これが右の通常の技術的意味と異ならないことを明らかにしているのである。

そうすると、本件発明の「編止め」の意味を、通常の意味とは別に被告が主張するように解しなければならない理由はない。

(四) 本件発明は、明細書の特許請求の範囲の記載と図面の記載との間において齟齬を有する。すなわち、特許請求の範囲においては、前記のようにステッチ糸4がフィラメント糸3を各ウエールにおいて一体に編止めすると限定して記載する一方、図面においては、フィラメント糸3をウエールとウエールとの間に挿入したものを記載している。

しかし、特許発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められなければならないから(特許法七〇条)、右の図面の記載にもかかわらず、本件発明は、ステッチ糸4によりフィラメント糸3を「各ウエールにおいて一体に編止め」したものに限定されたものと解しなければならないのであり、特許請求の範囲の記載を越えてその技術的範囲を主張することは許されないのである。

3 本件発明に対する先行技術について

(一) 本件発明の出願に対する先願である実用新案出願公告昭五八―四九五〇号公報(甲第三号証)は、本件発明と同じ経編地からなるベルト芯地であつて、モノフィラメント糸から成る緯糸2を編巾の両耳部にて一ウエール控えた位置で往復挿入し、耳端部の柔軟性ある挿入糸4により緯糸2の耳端の突出部を被覆した点の相違を除いて、本件発明と同一の編組織を採用している。

右甲第三号証の芯地は、加工糸1を伸縮性とした点で本件発明と一応相違しているが、本件発明は、明細書の発明の詳細な説明で「伸縮性糸を用いて伸縮性のある被服の芯材としてフィット性を高めることも可能である」(本件公報5欄三〇〜三一行)と記載し、右の加工糸1に対応するフィラメント糸3を伸縮性糸で構成し得ることを説明しており、この点では両者に実質的な差異はない。被告は、甲第三号証の芯地が長手方向に数倍にも伸びる伸縮性大なるものであると主張するが、同号証にはそのような説明はなく、むしろ、同号証の芯地は非伸縮性糸と併せて編組されたものであるから、実際に、数倍にも伸びるような伸縮性は期待されていないことが明白である。

そうすると、本件発明が甲第三号証の芯地と相違する点は、唯一、本件発明においては、可撓性合繊モノフィラメント糸1を所要の編巾一杯にわたり往復編成することにより両側端に耳部を形成した点にあるといわざるを得ない。

換言すれば、本件発明が右の限定を超えて、合繊モノフィラメント糸1を側端から一ウエール控えた位置で折返し、この折返し部に柔軟な耳部挿入糸を配設したものまでも、その技術的範囲に包含すると解釈することは、本件発明に先願の甲第三号証の考案を包含することになり、本件発明は重大な無効原因を有することになる。

したがつて、被告が本件発明とイ号製品、ロ号製品との対比においていうように、柔軟な耳部は有害無益な装飾にすぎないとするなら、本件発明と甲第三号証考案とは同一発明(考案)といわざるを得ず、自ら特許の無効を宣言するに等しい。

(二) 訴外日本バンロール株式会社製の芯地「バンロールXL―九一」(検甲第四号証)は本件発明の出願前に公知であつたものであるが、右「バンロールXL―九一」は、本件発明と同様ラッセル編地であつて、その編組織は本件発明の編組織と極めて近似している。すなわち、「バンロールXL―九一」におけるモノフィラメント糸とマルチフィラメント糸各一本宛並行して挿入された両端一針控挿入糸①(甲第一三号証参照)は本件発明の可撓性合繊モノフィラメント糸1に相当し(もつとも、前者は、イ号製品、ロ号製品と同様、一針控えて挿入されている点で相違する。)、前者のマルチフィラメント糸②は、後者の合繊フィラメント糸2に相当する(もつとも、前者は横方向両端にわたり一発振りで挿入しているのに対し、後者はジグザグ状に横に振つている点で相違する。)。また、前者の弾性糸③は、後者の縦方向に挿入されたフィラメント糸3に相当し、前者の地編糸④は、後者のステッチ糸4に相当する。特に、前者の縦方向挿入弾性糸③は、①、②の糸と共に、④の地編糸(ステッチ糸)によつて各ウエール(編目列)において一体に編止められており、本件発明の特許請求の範囲に表現された構成と全く同一である。また、被告は、伸縮性芯地と非伸縮性芯地とは、全く別系列であるかのような主張をしているが、縦方向挿入糸③に伸縮性糸を使用するか非伸縮性糸を使用するかだけの違いであつて、組織的には全く同じである。本件発明においても縦方向挿入糸3に伸縮性糸を用いてもよいとされていることは前記(一)で述べたとおりである。

以上のとおり、本件発明は、公知技術の存在によつて、決してパイオニア発明といえるものではなく、技術的範囲を拡張解釈すべきものではない。

(乙事件)

一  請求原因

1 甲事件請求原因1と同旨。

2 同2と同旨。

3(一) 同3(一)(本件発明の構成要件)と同旨。

(二) 本件発明の作用効果は次のとおりである。

(1) 「編地特有の適度の伸縮性と共に熱収縮の大きいマルチフィラメントの存在により熱処理を行なうだけで芯地に反りを付与し、在来の直線状の芯地に比較して復元力を強化せしめ端縁部分の外めくれを防止する効果が顕著となる外、従来の単に熱加工にてくせ付けし、反り彎曲させたものが洗濯後のアイロン熱で復元するとしても生地を損傷することが多いのに比べて、彎曲形状が半永久的に保持され、耐久性を増大せしめる効果」(本件公報8欄八〜二三行)を有する。

(2) 「又、本発明芯地は、前述の構成により一台の経編機で一度に数十条も製編可能で、生産性の向上、生産コストの低減を図り、有益な性能を加えた芯地を非常に安価に提供出来る利点」(同欄二四〜二八行)を持つ。

(3) 「更に基層を構成する合繊モノフィラメント糸は弾撥性があり、被着製品に適度の柔軟性並びに保形性を付与せしめると共に、経方向に配列されたフィラメントの挿入によつて強力及び保形性が高められ、かつ基層は両端がU字状屈曲で丸味をもつて連結しているため、従来のヒートカットしたものの様に鋭利で、布目を通して膚を刺すという心配もなくその上、両端が経編目を編成する編糸と共に編み込み止められて目ずれ防止の効果も併せ有している。」(同欄二八〜三七行)

4 原告は、別紙(三)(イ号製品)及び(四)(ロ号製品)記載の芯地を業として製造、販売している。

5 イ号製品、ロ号製品は、いずれも本件発明の技術的範囲に属する(甲事件被告の主張記載のとおり)。

6 損害

(一) 原告は、昭和五七年度以降昭和六一年度までの間に、イ号製品及びロ号製品を左のとおり販売した(年度は、いずれも一月一日から一二月三一日まで)。

(1) 昭和五七年度 一四二万〇四二七メートル

(2) 昭和五八年度 一六三万七四一二メートル

(3) 昭和五九年度 一四二万五八一四メートル

(4) 昭和六〇年度 一〇六万六九八〇メートル

(5) 昭和六一年度 一〇〇万メートル

(二) 右期間において、被告が販売した本件発明の実施品(イ号製品、ロ号製品との競合品)の一メートル当りの純益は、それぞれ左のとおりである。

(1) 昭和五七年度 九円三三銭

(2) 昭和五八年度 九円三〇銭

(3) 昭和五九年度 八円九一銭

(4) 昭和六〇年度 八円八六銭

(5) 昭和六一年度 七円八九銭

(三) 被告が販売している本件発明の実施品と競合する製品を製造、販売しているのは原告一社だけである。一方、被告は、右期間中に、もしも原告がイ号製品、ロ号製品を製造、販売しなかつたならば、同量の本件発明の実施品を販売し得る余力を有していた。

したがつて、被告は、原告の右行為によつて左のとおり得べかりし利益を失つた。

(1) 昭和五七年度 一三二五万二五八四円

9.33×1,420,427=13,252,584

(2) 昭和五八年度 一五二二万七九三一円

9.30×1,637,412=15,227,931

(3) 昭和五九年度 一二七〇万四〇〇二円

8.91×1,425,814=12,704,002

(4) 昭和六〇年度 九四五万三四四二円

8.86×1,066,980=9,453,442

(5) 昭和六一年度 七八九万円

7.89×1,000,000=7,890,000

合計 五八五二万七九五九円

7 よつて、被告は原告に対し、本件特許権に基づきイ号製品、ロ号製品の製造、販売の差止及び廃棄並びに不法行為に基づく損害賠償として金五八五二万七九五九円及びこれに対する不法行為の後である昭和六二年二月一九日から支払済みに至るまで民法所定五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1、2の事実は認める。

2 同3(一)の事実は認める。(二)のうち(1)は争い、その余は認める。

3 同4のうち、イ号製品、ロ号製品の説明が別紙(三)のイ号説明書及び別紙(四)のロ号説明書のとおりであることは争い、その余は認める。イ号製品、ロ号製品は、それぞれ別紙(一)、(二)記載のとおり記述されるべきである。

4 同5は争う(甲事件請求原因6及び原告の反論記載のとおり)。

5 同6(一)の事実は認める。(二)、(三)は争う。

三  原告の主張

1 被告の乙事件についての昭和六二年二月一八日付訴の変更申立書による請求の拡張は許されるべきではない。

(一) 本件訴訟は、昭和六一年一〇月九日の口頭弁論期日に一旦終結されたものであるが、右時点では、被告の乙事件の損害賠償請求は五〇〇万円の請求であつた。原告は、同年一二月一三日に、①イ号製品、ロ号製品が本件発明の技術的範囲に属するか否かの点と、②被告主張の五〇〇万円の損害賠償請求の両者について審理が不十分であるとして、口頭弁論再開の申請をしたところ、同月一八日付で「再開後の弁論を損害論に限定する」として本件口頭弁論の再開決定がなされた。右決定は、あくまで原告の口頭弁論再開申請を受けてなされたものであるから、それは、被告の主張する五〇〇万円の損害賠償請求を前提としてなされたことはいうまでもない。したがつて、口頭弁論再開後の審理は、右五〇〇万円の損害賠償請求が正当かどうかの範囲にその審理範囲が限定されるものである。

(二) 仮に右主張が理由がないとしても、被告の前記請求の拡張は、著しく訴訟手続を遅延させるものであるから、許されない。

すなわち、従前の五〇〇万円の損害賠償請求と前記拡張後の請求とでは、請求額が五〇〇万円から六〇二〇万三三七五円に増額(その後五八五二万七九五九円に減縮)になり、不法行為の期間も変更になつただけではなく、損害算定の根拠も、原告の得た利益による推定から被告の得べかりし利益の喪失に変更になつた。従来の請求については、原告がその得た利益を明らかにすることによつて立証は終了しているが、拡張部分については相当の立証を要する。

2 被告は、原告がイ号製品、ロ号製品を販売しなかつたならば被告の本件発明の実施品が同数量売れたはずであると主張する。

しかし、原告の製造、販売している芯地は、イ号製品、ロ号製品だけではなく、その他に原告は、検甲第一〇号証の一ないし四、第一一号証の一、二、第一二号証の一ないし八、第一三号証の一、二、第一四号証の一ないし六、第一五号証の一ないし八、第一六号証、第一七号証の一ないし一四、第一八号証の一ないし一一、第一九、第二〇号証の各一ないし三、第二一号証の一ないし四の芯地を販売している。したがつて、原告がイ号製品、ロ号製品を販売しなかつたとしても、右各製品のどれかが販売されていたものであつて、被告の製品が売れたかどうかは全く不明である。

また、右以外に、同業者の製造、販売する芯地として例えば検甲第二二、第二三号証の各一、二、第二四号証の一ないし四の製品があり、原告がイ号製品、ロ号製品を販売しなければ、これらの製品が売れたかもしれないのである。

3 被告が前記請求の拡張を行つたのは昭和六二年二月一八日であるから、昭和五九年二月一七日以前の不法行為についての損害賠償請求権は、被告が損害及び加害者を知つてから三年を経過しているので、時効によつて消滅している。原告は、昭和五七年一月からイ号製品、ロ号製品を販売しているところ、被告は、昭和五九年二月一五日にイ号製品、ロ号製品が本件特許権を侵害するので法的措置を講じる旨の新聞広告をしているのであるから、右時点で被告が原告の前記販売行為が違法であり、加害者が原告であることを知つていたことは明らかである。

原告は、本訴において右時効を援用する。

四  原告の主張に対する被告の認否、反論

1 原告の主張1は争う。

2 同2の主張は争う。

原告挙示の芯地のうち、検甲第一九、第二〇号証の各一ないし三を除くものは、高級な紳士物や婦人物等グレードの高いものに用いられるイ号製品、ロ号製品とは用途を異にし、その代替品たり得ないものである。

検甲第二〇号証の一ないし三は、ロ号製品そのものにほかならない。

検甲第一九号証の一ないし三は、本件発明の芯地の編組織とほとんど同一であるが、芯地の上側辺部に挿入されている熱収縮糸が二本であり、「弾撥性の強い可撓性合繊モノフィラメント糸1」の代りに、マルチフィラメント糸、すなわち多条繊維を撚つたものが用いられ、樹脂加工されている。細い多条の繊維に撚りをかけてこれに樹脂加工を施せば、一本の「弾撥性の強い可撓性合繊モノフィラメント糸1」とほとんど変りのない挙動をその編組織の中で行うから、かかる芯地は本件発明の芯地の均等物である。それ故、このような芯地は、法的にはイ号製品、ロ号製品の代替品とは言い得ない。しかも、右検甲第一九号証の一ないし三の芯地は、樹脂加工を施されており、芯地を永く着用使用し、また、それに洗濯を施すことによつて芯地から樹脂が剥落して保形性が失われてゆくことを避け得ない。したがつて、右芯地とイ号製品、ロ号製品とは、保形性の持続において格段の差を有しており、実用の面において商品として異なつており、代替性を持つものではない。

3 同3の主張は争う。

被告は、乙事件訴訟を昭和五九年六月二八日に提起した際には、原告の侵害行為を構成している芯地を、柔軟な耳様の編組織が芯地の両側辺に付加された構造のもの(旧製品)に特定していた。しかし、右訴訟提起の直前の同年六月九日に甲事件訴訟の訴状が被告に送達され、右訴状では、原告の製造、販売している芯地は、耳様の柔軟な編組織を芯地の下側辺にのみ付加した構造のもの(イ号製品、ロ号製品)であるとされており、被告の調査の結果、旧製品は昭和五五年七月一日から昭和五七年一月一三日まで製造、販売されていたに留まり、当時の原告の市販品はすべてイ号製品、ロ号製品であることが判明した。そこで、被告は、昭和六〇年三月二〇日付訴の変更申立書をもつて、原告の侵害行為を組成している芯地をイ号製品、ロ号製品に変更する旨の訴の変更を行つた。

以上のとおり、現在の被告の損害賠償請求は、原告がイ号製品、ロ号製品を販売したことによるものであり、被告が原告のかかる違法行為を知つたのは昭和五九年六月九日以降である。したがつて、昭和五七年一月一日以降昭和五九年六月九日頃までの間に生じた損害賠償請求権の消滅時効は昭和五九年六月九日頃から進行を開始するところ、被告は昭和六二年二月一八日に請求の拡張により右期の損害賠償も請求したから、時効は中断した。

第三  証拠<省略>

理由

(甲事件について)

一原告が本件特許権を有していること、本件明細書の特許請求の範囲が本件公報該当欄記載のとおりであること、本件発明の構成要件が請求原因3(一)記載のとおりであること、本件発明の作用効果として少なくとも同3(二)の(1)ないし(4)記載のものがあることは、当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第二号証(本件公報)によれば、本件発明の必須要件項の構成が奏する作用効果としては右原告主張のとおりであるが、そのほかに、本件発明の実施態様項による作用効果としては被告主張の乙事件請求原因三(二)(1)記載のものも存在することが認められる。

二原告が業として別紙(一)添付の「イ号図面」に示された編組織の芯地(イ号製品)及び別紙(二)添付の「ロ号図面」に示された編組織の芯地(ロ号製品)を製造販売していることは、当事者間に争いがない。

被告は、イ号製品、ロ号製品の構造はそれぞれ別紙(三)添付のイ号説明書及び別紙(四)添付のロ号説明書記載のとおり記述されるべきであると主張するところ、原・被告間で争いがあるのは、柔軟なフィラメント糸3が合繊モノフィラメント糸1及び合繊フィラメント糸2と共にステッチ糸4によつて三者一体に編止めされているか否かの点と、原告が「柔軟な耳部」という表現を用いているのに対し、被告が「一ウエール分の柔軟な耳様の編組織」と表現している点である。これらの点については、本件発明の特許請求の範囲に記載された「一体編止め」や「耳部」の解釈に係わるものであるが、結局後に詳述するとおり、イ号製品、ロ号製品のフィラメント糸3は、合繊モノフィラメント糸1及び合繊フィラメント糸2と共にステッチ糸4によつて「三者一体に編止めされている」ものと認められるのであり、また、原告が「柔軟な耳部」と呼ぶ部分は本件発明の耳部とは別に付加されているものであるから、これと区別し、より正確に表現するために「一ウエール分の柔軟な耳様の編組織」と呼ぶ方が適切であると考えられる。

したがつて、イ号製品、ロ号製品の構造は、それぞれ別紙(三)添付のイ号説明書及び別紙(四)添付のロ号説明書記載のとおり記述されるべきである。

三イ号製品、ロ号製品と本件発明とを対比する。

1  本件発明は、本件明細書の特許請求の範囲の記載から明らかなごとく、編組織による芯地に関する発明であるところ、イ号製品、ロ号製品は、いずれも経糸、緯糸挿入の経編ラッセル組織により形成された帯体から成る芯地であり、編組織による芯地であるから、この点では本件発明と異ならないことが明らかである。

2  本件発明の構成要件(2)について

イ号製品、ロ号製品は、いずれも、「ウエール方向に配置され、各ウエールより一ウエール飛び離れたウエールとの間においてジグザグ状に横に振り、各ウエール間に振り糸の重合により重複部分2'を形成してなる柔軟な合繊フィラメント糸2と、ステッチ糸4とにより基本的に経編ラッセルの編組織が構成されていて」、これに前記合繊モノフィラメント糸1が挿入されているものであるから、イ号製品、ロ号製品の合繊フィラメント糸2の構成は本件発明の合繊フィラメント糸2の構成と異ならないものと認められる。

したがつて、イ号製品、ロ号製品は、本件発明の構成要件(2)を充足する(このことは、原告において争つていない。)。

3  本件発明の構成要件(3)について

イ号製品は、前記合繊フィラメント糸2とステッチ糸4により構成される編組織に「柔軟なフィラメント糸3が経糸として各ウエールとウエールとの間に一本宛直線状に挿入されて」おり、「経糸挿入糸である柔軟なフイラメント糸3中、上側辺部の三本のみには熱収縮性の糸が使用されている」ものである。また、ロ号製品は、前同様の編組織に「柔軟な熱収縮性のフィラメント糸3が経糸として帯体の上側辺部のウエールとウエールとの間に一本宛計三本のみ直線状に挿入されている」ものである。

一方、本件発明の構成要件(3)は、「適宜数のフィラメント糸3」が「前記モノフィラメント糸1層に対し、前記糸2層と同一面又は他面の少なくとも一面において縦方向に挿入」されるものであるから、イ号製品、ロ号製品の前記各フィラメント糸3の構成が本件発明のフィラメント糸3の構成と同一であることは明らかである。なお、イ号製品、ロ号製品は、それぞれ、そのフィラメント糸3の全部又は一部に熱収縮性の糸を使用するものであるところ、本件発明は、本件明細書の特許請求の範囲第1項ではフィラメント糸3の熱収縮性の点について触れていないが、熱収縮性のある糸を使用することを排除するものとは解されないし、イ号製品のように、上側辺部の三本のフィラメント糸3にのみ熱収縮性の糸を使用する構成は、実施態様項たる特許請求の範囲第4項に示されているところである。

したがつて、イ号製品、ロ号製品は、本件発明の構成要件(3)を充足する(このことは、原告において争つていない。)。

4  本件発明の構成要件(4)について

本件発明の構成要件(4)は「前記各糸1、2、3を各ウエールにおいて縦方向に一体に編止めしてなるステッチ糸4とからなる」というものである。

右にいう「ウエール」とは、成立に争いのない乙第三号証(JIS用語辞典Ⅵ繊維編)によれば、縦方向の編目列を意味するものと認められ、また、「編止め」とは、本件明細書の発明の詳細な説明に「4は前記マルチフィラメント糸2による横振り層を合繊モノフィラメント糸層の一面に編み止めする、通常、鎖編の如き経編目からなるステッチで前記モノフィラメント糸1及びマルチフィラメント糸2を横振りする時、一緒に別の編糸を編み込み編成する。」(本件公報5欄三二〜三七行)と記載されていることが認められることからすると、ステッチ糸4によつて他の糸を編み込んで止めることをいうものと解される。

イ号製品、ロ号製品は、いずれも、「ステッチ糸4によつて、合繊モノフィラメント糸1と合繊フィラメント糸2とを編み合わせ」ているものであるから、右糸1、2がステッチ糸4によつてウエールにおいて縦方向に一体に編止めされていることは明らかである。

ところで、イ号製品、ロ号製品においては、柔軟なフィラメント糸3はウエールとウエールの間で合繊モノフィラメント糸1と合繊フィラメント糸2の間に挿入されているものであり、前記のとおり合繊モノフィラメント糸1と合繊フィラメント糸2がステッチ糸4によつて編み合わせられていることにより、いわば間接的にステッチ糸4によつて編み込んで止められているものである。原告は、本件発明の「編止め」はステッチ糸4の編目に直接係わつて止められることを意味し、しかも編止めは「各ウエールにおいて」行われなければならないのであつて、イ号製品、ロ号製品は、ステッチ糸4がフィラメント糸3を一体に編止めしておらず、フィラメント糸3をステッチ糸4の各ウエールに配設していないから、本件発明の構成要件(4)を充足しない旨主張する。しかし、前掲甲第二号証によれば、本件明細書に添付された本件発明の実施例を示した第1図ないし第3図には、フィラメント糸3がイ号製品、ロ号製品と同じく、ウエールとウエールの間で合繊モノフィラメント糸1と合繊フィラメント糸2の間に挿入されている構成が図示されており、発明の詳細な説明の項では、右添付図面に示された実施例に基づいて本件発明の芯地の具体的内容の説明がなされていることが認められる。本件明細書の発明の詳細な説明及び図面の右のような記載を参酌すれば、本件発明の構成要件(4)にいう「前記各糸1、2、3を各ウエールにおいて縦方向に一体に編止めしてなるステッチ糸4」には、フィラメント糸3がウエールとウエールの間で合繊モノフィラメント糸1と合繊フィラメント糸2の間に挿入されており、ステッチ糸4がその編目において合繊モノフィラメント糸1と合繊フィラメント糸2を編み合わせることによつて右糸1、2、3を止める構成も含まれるものと解される。本件発明の構成要件(4)は、ステッチ糸4に関する要件を記述したものであるが、「各ウエールにおいて」とはステッチ糸4の配設される位置を示すものと理解できるし、「前記各1、2、3を……一体に編止めしてなる」という文言も、文理上は、必ずしも前記各糸1、2、3のすべてがステッチ糸4によつて直接編み合わされなければならないものと限定した解釈しか成り立ち得ないものではない。なお、成立に争いのない甲第一四号証(株式会社繊維ジャーナル発行の「経編技術問題集」83)には「下図の挿入糸(ニ)は(イ)、(ハ)によつて作られる編地の表面に(ロ)の鎖編によつてその横振りの両端を止められている。」という記載及び右鎖編がその編目によつて直接他の糸を止める態様を示す図面の存することが認められるが、右は「編止め」の語義を定義したものではなく、その一態様を示したものにすぎないから、本件発明の「編止め」の意義を原告主張のように解釈すべきものとする証左となるものではないし、他に原告主張のような解釈しか文理上成立しないものと認めるべき証拠はない。したがつて、本件明細書の発明の詳細な説明及び図面を参酌して、本件発明の構成要件(4)の意味を前記のように解釈することが、特許請求の範囲の記載から逸脱するものでないことはいうまでもない。

原告は、右の点について、本件明細書の特許請求の範囲の記載と図面の記載との間に齟齬があると主張するが、特許請求の範囲に記載された「各ウエールにおいて」及び「一体に編止めして」の文言から一義的に原告主張のような解釈しか文理上成り立ち得ないというわけではないから、特許請求の範囲の記載と図面の記載の間に齟齬があるとはいえない。

したがつて、イ号製品、ロ号製品は、本件発明の構成要件(4)を充足する。

5  本件発明の構成要件(1)及び利用関係について

イ号製品、ロ号製品は、いずれも、「弾撥性の強い可撓性合繊モノフィラメント糸1が緯糸として折返し屈曲状に帯体の長手方向に連続して挿入されており、この合繊モノフィラメント糸1が帯体の上側辺部では側端部で折返されているが、下側辺部では側端から一ウエール内側に控えた位置で折返すと共に、この下側辺部の側端に柔軟な挿入糸5を配設することにより、帯体の下側辺部全長にわたつて一ウエール分の柔軟な耳様の編組織が形成されて」いるものである。

これに対し、本件発明の構成要件(1)は「所要の編巾一杯にわたり両側端に耳部を形成しながら往復編成してなる弾撥性の強い可撓性合繊モノフィラメント糸1」というものである。

本件発明の芯地は、右の記載から明らかなとおり、緯糸として弾撥性の強い可撓性合繊モノフィラメント糸が往復編成されるものであるが、この点はイ号製品、ロ号製品も全く同一である。

本件発明においては、右合繊モノフィラメント糸1が「所要の編巾一杯にわたり両側端に耳部を形成しながら」往復編成されるものであるところ、本件発明の芯地は、特許請求の範囲の記載から明らかなごとく、合繊モノフィラメント糸1、合繊フィラメント糸2、フィラメント糸3及びステッチ糸4による編組織を成すものであるから、前記「所要の編巾」とは、編成される当該芯地の編巾をいうものと解される。また、本件発明の合繊モノフィラメント糸1は、編巾の両端部に「耳部」を形成するものであるところ、前掲甲第二号証によれば、本件明細書の発明の詳細な説明には、「第1図及び第2図は、本発明の第1番目の発明に係る構成の一例であり、図において1は基層をなす弾撥性の強い可撓性合繊フィラメント糸であり、例えば経編機により所要巾の編巾一杯に振つて往復編成し、連続せる屈曲形状をなした細巾基層を形成している。」(本件公報4欄三六〜四一行)、「合繊モノフィラメント糸1による所要編巾の両端は連続したU字状屈曲をなしており」(同5欄三九〜四〇行)、「基層は両端がU字状屈曲で丸味をもつて連続している」(同8欄三二〜三三行)と記載されていることが認められ、これらの記載を参酌すれば、前記「耳部」とは、合繊モノフィラメント糸の往復編成によつてその側端部に形成されているU字状の屈曲部のことを意味するものと認められる。

そこで、イ号製品、ロ号製品をみるに、いずれも、合繊モノフィラメント糸1が「折返し屈曲状に」帯体の長手方向に連続して挿入されるものであるし、それぞれイ号製品、ロ号製品の各編組織を示したものであることに争いのない別紙(一)添付のイ号図面及び別紙(二)添付のロ号図面によれば、イ号製品、ロ号製品の合繊モノフィラメント糸1の側端部はU字状の屈曲部が形成されていることが認められる。

ところで、本件発明の芯地においては「所要の編巾一杯にわたり両側端」に耳部が形成されるものであるのに対し、イ号製品、ロ号製品は、合繊モノフィラメント糸1が「帯体の上側辺部では側端部で折返されているが、下側辺部では側端から一ウエール内側に控えた位置で折返」されているものであるから、芯地全体を見れば、その編巾一杯にわたつて合繊モノフィラメント糸が往復編成されておらず、しかも「この下側辺部の側端に柔軟な挿入糸5を配設することにより、帯体の下側辺部全長にわたつて一ウエール分の柔軟な耳様の編組織が形成されて」いる点で本件発明には存在しない構成を有していることが明らかである。

しかしながら、イ号製品、ロ号製品は、以下に述べるとおり、本件発明の特許請求の範囲に記載されている構成要件(1)ないし(4)のすべてを具備する編組織を本体とし、その下側辺に一ウエール分の柔軟な耳様の編組織を付加した芯地であると認められる。

すなわち、イ号製品、ロ号製品の柔軟な耳様の編組織は、前記別紙(一)添付イ号図面及び別紙(二)添付ロ号図面の記載によれば、柔軟な挿入糸5並びに一ウエール分の柔軟な合繊フィラメント糸2及びステッチ糸4によつて形成されており、合繊フィラメント糸2は、イ号製品、ロ号製品の耳様の編組織の部分とその余の部分(以下「本体部分」という。)とを一体化するごとく配設されていることが認められる。しかし、柔軟な挿入糸5の配設は、イ号製品、ロ号製品の本体部分の編組織自体には何ら変更を加えるものではなく、柔軟な耳様の編組織を構成する柔軟な挿入糸5、合繊フィラメント糸2及びスチッチ糸4を除去したとしても、本体部分の編組織が崩れることなく残存することは、右各図面の記載に徴して明らかである。そうすると、イ号製品、ロ号製品の本体部分の編組織は、既にみたとおり本件発明の構成要件(2)ないし(4)を充足するものであるし、同構成要件(1)についても、本体部分のみを取り出せば、その「所要の編巾一杯にわたり両側端に耳部を形成しながら往復編成してなる弾撥性の強い可撓性合繊モノフィラメント糸1」という要件を満たしていることは明らかである。

ところで、一般に「芯地」とは、衣服の形を保ち整えるために使用される布のことであり、前掲甲第二号証によれば、本件発明は、カラー芯地、帯芯、ベルト芯等の芯地に関する発明であり、保形性に優れた芯地を提供することを目的の一つとするものであることが認められ、保形性は芯地に要請される最も基本的な機能であるといえる。一方、イ号製品であることにつき争いのない検甲第一号証及びロ号製品であることにつき争いのない検甲第二号証によれば、イ号製品、ロ号製品の柔軟な耳様の編組織の部分は、芯地に要求される保形性を有しておらず、イ号製品、ロ号製品の保形性は、弾撥性の強い可撓性合繊モノフィラメント糸1が往復編成されている本体部分によつて発揮されるものと認められる。弁論の全趣旨によれば、イ号製品、ロ号製品は、芯地の中でもスラックスやスカートのベルト部に用いられるベルト芯であると認められるが、イ号製品、ロ号製品の芯地が実際に使用される際に、柔軟な耳様の編組織の部分がベルト布と共に折返されるか否かにかかわらず、右部分は芯地の保形性に何ら寄与しないことが明らかである。また、本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明によれば、「適度の柔軟性と長手方向伸縮性ならびに復元性を有すると共に、体形に即したフィット性があり、かつ保形性に優れ、外めくれ防止に顕著な効果を有する芯地を提供することを目的とする」(本件公報3欄三七〜四一行)ものであるが(前掲甲第二号証)、保形性以外に右に掲記された諸点も、イ号製品、ロ号製品のようなベルト芯に等しく要請される基本的な性質であると考えられるところ、イ号製品、ロ号製品の柔軟な耳様の編組織がこれらの点に格別寄与するものと認め得る証拠はない。

原告は、本件発明のように、合繊モノフィラメント糸1を編巾一杯にわたり往復編成し、耳部に同糸の屈曲端が露出すると、同糸は腰が強いため、ベルト用芯地として用いたときに、ちくちくと肌を刺激する欠点があるところ、イ号製品、ロ号製品では、柔軟な耳様の編組織を形成することによつて右欠点を緩和していると主張する。しかし、前掲甲第二号証によれば、本件明細書の発明の詳細な説明において「……広巾織物の横糸に合繊モノフィラメント糸を打ち込み、縦方向に所要巾にヒートカットして使用するものが改良として市販に供されている。しかし、この芯地も合繊モノフィラメント糸の糸層が平滑であるために、該モノフィラメント糸が自由に摺動して布目から出てカット端が鋭利となつて着用者の膚を刺し、不愉快となる欠点を有している。」(本件公報3欄一七〜二五行)と従来の芯地について原告主張のような欠点があることを指摘し、本件発明においては、「基層は両端がU字状屈曲で丸味をもつて連結しているため、従来のヒートカットしたものの様に鋭利で、布目を通して膚を刺すという心配もなく」(同8欄三二〜三五行)という作用効果を奏するものとしたことが認められる。右のとおり、原告が耳様の編組織による効果として主張する「ちくちくと肌を刺すという欠点を緩和する」との点は、本件発明の合繊モノフィラメント糸1を両側端に耳部を形成しながら往復編成したことによつて達せられている効果であり、このことは、下側辺部に柔軟な耳様の編組織が形成されていても何ら影響を受けるものでないことが明らかである。また、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める乙第四、第五号証、イ号製品を実施した例であることに争いのない検甲第八号証、イ号製品をズボンに使用したものであることに争いのない検甲第九号証によれば、本件発明の芯地やイ号製品、ロ号製品の芯地のようなベルト芯にあつては、芯地をスラックスやスカートの腰部に縫着して使用する際には、芯地をベルト布に包んでスラックス、スカートの本体布地上辺部に縫付けるものであつて、芯地の下側辺部が上側辺部に比して肌に対しより敏感に作用するような関係にはないことが認められ、合繊モノフィラメント糸1をU字状に屈曲折返して編成することにより「布目を通して膚を刺すという心配」を除去した芯地本体の下側辺に、さらに耳様の柔軟な編組織を付加して右のような効果を増大させる必要性があるとは考えられない。

次に原告は、イ号製品、ロ号製品は、合繊モノフィラメント糸1を下側部側端から一ウエール内側に控えた位置で折返すことにより、熟処理をして上部三本の経糸挿入糸3が熱収縮した際、下側端が合繊モノフィラメント糸1で拘束されておらないため、本件発明に比較して容易に所望の扇形弧状に変形し得るという効果を奏すると主張する。

しかし、本件発明は、その実施態様項である本件明細書の特許請求の範囲第2項において「任意の合繊フィラメント糸2が基層を形成する合繊モノフィラメント糸より熱収縮性が大きく、熱加工処理により収縮して生地に湾曲反り形状を付与せしめている特許請求の範囲第1項記載の芯地。」と記載され、同第4項において「縦方向に配列挿入されたフィラメントが熱収縮を異にするフィラメントからなり、かつ巾方向に一側より熱収縮を大から小へ順次段階的に異にする2乃至複数の縦糸配列郡に区分されている特許請求の範囲第1項、第2項又は第3項記載の芯地。」と記載されているものであり、発明の詳細な説明においても、本件発明の芯地の特徴として、前記任意の合繊フィラメント糸2に「基層を形成するモノフィラメント糸より熱収縮性が大なる糸を使用して熱加工処理により収縮させて芯地に湾曲反り形状を与え、復元力を増大せしめることである。」(本件公報4欄二一〜二五行)、「経方向に配列されるフィラメント糸に……熱収縮率の差を設け、全巾に亘り一側より順次熱収縮の異なる経糸郡に区分せしめ、爾後の熱処理により扇形弧状に形成させ、体形に即した良好なフィット性を有せしめることも本発明の特徴である。」(同4欄二六〜三三行)と記載されている(前掲甲第二号証)。このように、芯地に湾曲形状を付与することは本件発明がその実施態様項によつて奏する作用効果の一つであつて、イ号製品、ロ号製品においても、上側辺部に三本の熱収縮性のフィラメント糸3を経糸として挿入するという、本体部分の有する編組織によつて、本件発明と同じく湾曲形状を形成するという作用効果を有することは明らかである。原告は、イ号製品、ロ号製品では、一ウエール分の柔軟な耳様の編組織の存在によつて、本件発明に比較して容易に所望の扇形弧状に変形し得るという効果を奏するものであると主張するところ、なるほど、成立に争いのない甲第四号証(福井県繊維工業試験場長作成の試験成績書)には、二種類の芯地の試料A、B(試料Aは耳様の編組織を有しない本件公報第1図同様の編組織による芯地で、上側三本のフィラメント糸にのみ熱収縮糸を使用したもの、試料Bはイ号製品)についてスチームプレス収縮による湾曲変形長を測定したところ、試料Bの方が変形長が大きいという結果が得られた旨の記載がある。しかし、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める乙第八号証の一、二、それぞれ乙第八号証の一の(い)のベルト芯地、同(ろ)のベルト芯地、同(は)のベルト芯地であることにつき争いのない検乙第一〇号証の一ないし三によれば、同一の編組織の芯地であつても、編成に当つて各糸に加える張力を調整することだけによつて湾曲変形の有無、大きさを変化させることができることが認められるのであり、前掲甲第四号証の試料A、Bの各糸の張力は明らかでないから、同号証に基づいて原告の前記主張を肯認するのは相当でない。かえつて、成立に争いのない乙第九号証の一ないし六、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める同号証の七によれば、前掲甲第四号証の試料A、Bと各同一の編組織で、対応する糸の種類、太さ、張力を同一にした芯地を用いて、広島県立福山繊維工業試験場において乾熱法による変形度試験、高圧蒸気による変形度試験を実施した結果では、耳様の柔軟な編組織が存在することによつて芯地の湾曲変形度が大きくなるとはいえないという結果が示されていることが認められる。他に原告の前記主張を認めるに足りる証拠はない。

以上のとおり、イ号製品、ロ号製品の一ウエール分の柔軟な耳様の編組織は、芯地として何ら格別の効果を奏するものではなく、無用な付加物にすぎないものというべきであり、芯地としての機能を果しているのは、右耳様の編組織部分を除いた本体部分であるということができる。

してみると、イ号製品、ロ号製品は、いずれも、本件発明の構成要件をすべて充足する編組織から成る本体部分に一ウエール分の柔軟な耳様の編組織を付加したものにほかならないものと認めるのが相当である。そして、右本体部分が本件発明の構成要件をすべて充足する結果、イ号製品、ロ号製品は、全体として本件発明の作用効果と同様の作用効果を奏するものと認められ、このことは、一ウエール分の柔軟な耳様の編組織を付加したことによつて左右されるものでないことが明らかである。すなわち、イ号製品、ロ号製品は、柔軟な耳様の編組織が付加されることによつても本件発明の構成が一体性を失うことなく含まれているものというべきであるから、本件発明を利用するものということができる。

したがつて、イ号製品、ロ号製品は、いずれも本件発明の技術的範囲に属する。

6  先行技術について

原告は、本件発明が、合繊モノフィラメント糸1を側端から一ウエール控えた位置で折返し、この折返し部に柔軟な耳部挿入糸を配設したものまでも、その技術的範囲に包含すると解釈することは、本件発明の出願に対する先願である実用新案出願公告昭五八―四九五〇号公報(甲第三号証)の考案を本件発明に包含することになると主張する。

成立に争いのない甲第三号証によれば、原告主張の右考案は、衣料用芯地に関する考案で、昭和五一年六月一五日出願(公開昭和五二年一二月二一日、公告昭和五八年一月二七日)に係り、本件発明の特許出願に対し、先願の関係にあることが認められるが、右考案の内容は、右公報の実用新案登録請求の範囲及び考案の詳細な説明によれば、経糸に伸縮性糸を用いた編組織の芯地において、緯糸の非伸縮性モノフィラメント糸が生地端から突出するのを避けるために同糸の突出部を被覆する柔軟性ある挿入糸による耳部を両側に設けた構成であることが認められる。しかし、右考案の芯地の編組織は、右甲第三号証によれば、本件発明がとつているような、合繊フイラメント糸2を「各ウエールより1ウエール飛び以上離れたウエールとの間においてジグザグ状に横に振り、各ウエール間に振り糸の重合により重複部分2'を形成」するという構成はとつていないことが認められ、本件発明の芯地とは編組織の内容を異にしており、単に柔軟性ある挿入糸による両耳部の有無の違いだけではないのである。

したがつて、右甲第三号証の考案を参酌して本件発明の技術的範囲を限定して解釈しなければいけないものではなく、同号証、前記認定のように、芯地としての機能に寄与しない無用な付加物である一ウエール分の柔軟な耳様の編組織を有するイ号製品、ロ号製品が本件発明の技術的範囲に属すると判断する妨げとなるものではない。

また、原告は、本件発明の出願前に公知の芯地として「バンロールXL―九一」を挙げるが、成立に争いのない甲第一三号証によれば、バンロールXL―九一の編組織は、本件発明の合繊モノフィラメント糸1に相当するモノフィラメント糸が両端一針控えて往復挿入されているほかに、これと並行してその両側端より一ウエール余分に広く振られたマルチフィラメント糸が配設されていることが認められるなど、本件発明の芯地の編組織とは異なることが明らかである。したがつて、右バンロールXL―九一もイ号製品、ロ号製品が本件発明の技術的範囲に属するとの前記認定を左右するものではない。

四以上によれば、イ号製品、ロ号製品が本件発明の技術的範囲に属しないことを前提とする原告の甲事件請求は、その余の判断に進むまでもなく、いずれも理由がない。

(乙事件について)

五被告が本件特許権を有していること、原告が業としてイ号製品及びロ号製品を製造、販売していること、イ号製品及びロ号製品がいずれも本件発明の技術的範囲に属することは、前述のとおりである。

したがつて、原告の右行為は本件特許権を侵害するものであるから、被告は原告に対し、イ号製品及びロ号製品を製造、販売することの中止並びにその廃棄を求めることができる。

六損害について

1  原告は、乙事件についての被告の昭和六二年二月一八日付訴の変更申立書による請求の拡張は許されるべきではないと主張するので、まずこの点について判断する。

本件訴訟は、昭和六一年一〇月九日の第一五回口頭弁論期日に一旦終結されたこと、右時点での乙事件における被告の損害賠償請求は、原告が昭和五八年度ないし昭和六〇年度にイ号製品及びロ号製品を合計四一三万〇二一四メートル販売し、一メートル当りの利益額が五円であるから合計二〇六五万一〇七〇円の利益を得たとして(右販売数量及び一メートル当りの利益額は、当事者間に争いがなかつた。)、特許法一〇二条一項により右利益の額が被告の被つた損害であると推定されると主張して、右二〇六五万一〇七〇円の内金五〇〇万円及び遅延損害金の支払を求めるものであつたこと、原告は、昭和六一年一二月一三日口頭弁論再開の申立をなし、当裁判所は、同月一八日「本件口頭弁論を再開する。再開後の弁論を損害論に限定する。」との決定をしたこと、原告は、右再開後の昭和六二年二月一八日の第一六回口頭弁論期日に陳述された昭和六一年一二月一三日付準備書面において、前記のイ号製品、ロ号製品の販売による一メートル当り五円の利益額は粗利益であつて、昭和五八年度ないし昭和六〇年度にイ号製品、ロ号製品の販売によつて原告の得た純利益額は合計二三八万九三〇六円であると主張したこと、一方被告は、前記第一六回口頭弁論期日に陳述された同日付訴の変更申立書によつて損害賠償の請求額を六〇二〇万三三七五円に拡張するとともに(なお、請求額は、その後五八五二万七九五九円に減縮された。)、その請求原因も、乙事件請求原因6記載のように、昭和五七年度ないし昭和六一年度に原告がイ号製品、ロ号製品を販売したことによる被告の得べかりし利益の喪失の主張に変更したこと、その後被告の右損害について当事者双方の主張・立証が重ねられ、昭和六二年一一月三〇日の第二一回口頭弁論期日に弁論が終結されたこと、以上の事実は、当裁判所に顕著である。

右事実によれば、本件訴訟における前記口頭弁論再開後の弁論は損害論に限定されたものではあるが、損害論に関する限り、従来の主張を変更して請求額を拡張することも許されないわけではないから、口頭弁論再開後の審理は、五〇〇万円の損害賠償請求が正当かどうかの範囲に限定されるとする原告の主張は失当である。

さらに、原告は、被告の前記請求の拡張は著しく訴訟手続を遅延させるものであるから許されないと主張するが、前認定の訴訟の経過に照らせば、被告の前記請求の拡張は、原告の前記利益額についての主張の変更に対抗してなされたものであるし、仮に右請求の拡張がなされなくても、再開後の弁論において原告の主張訂正後の利益額について審理を要したものと認められ、被告の前記請求の拡張が時機に後れたとか、訴訟の完結を遅延させるものであつたとはいえない。

したがつて、原告の右主張は失当である。

2(一)  原告が昭和五七年度以降昭和六一年度(各年度は一月一日から一二月三一日まで)までの間に、イ号製品及びロ号製品を次のとおりの数量販売したことは、当事者間に争いがない。

(1) 昭和五七年度 一四二万〇四二七メートル

(2) 昭和五八年度 一六三万七四一二メートル

(3) 昭和五九年度 一四二万五八一四メートル

(4) 昭和六〇年度 一〇六万六九八〇メートル

(5) 昭和六一年度 一〇〇万メートル

(二)  <証拠>によれば、被告は右期間中本件発明の実施品である芯地を製造、販売していたこと、原告が右期間中にイ号製品、ロ号製品を製造、販売しなかつたならば、被告において同数量の本件発明の実施品を販売し得る余力を有していたこと、右期間中被告が製造、販売していた本件発明の実施品と競合し、これと代替性を有する芯地として市場に出ていたのはイ号製品及びロ号製品のみであつたことが認められる。

原告は、イ号製品、ロ号製品以外にも原告又は他の同業者が製造、販売している芯地は多数あり、原告がイ号製品、ロ号製品を販売しなかつたとしても被告の製品が売れたかどうか不明であると主張する。しかし、原告の挙示する検甲各号証の芯地のうち、ニット・モノフィラタイプ四〇七五であることにつき争いのない検甲第二〇号証の一、ニット、モノフィラタイプP四〇七五であることにつき争いのない同号証の二及びニット・モノフィラタイプNCLWであることにつき争いのない同号証の三は、証人濱川正秋の証言によれば、ロ号製品にほかならないことが認られるし、その余の検甲号各証(<証拠>)はいずれも本件発明の芯地の編組織とは異なる編地又は織地或いは不織布の芯地であると認められ、本件発明の実施品たる芯地とは用途ないしグレードを異にするものと考えられるから、本件発明の実施品との間に代替性があるとはいえない。

右事実によれば、原告が前記期間にイ号製品及びロ号製品を販売しなければ、被告は同数量の本件発明の実施品である芯地を販売して利益を上げることができたはずであると認められる。

(三)  <証拠>によれば、被告が前記期間に販売した本件発明の実施品について、販売額から仕入額、荷造費、運送費を控除した一メートル当りの平均利益額は次のとおりであり、被告が前認定のイ号製品、ロ号製品の販売数量に相当する数量の本件発明の実施品を販売したとすれば、同程度の利益額で算出した利益を上げ得たものと認められる。

(1) 昭和五七年度 九円三三銭

(2) 昭和五八年度 九円三〇銭

(3) 昭和五九年度 八円九一銭

(4) 昭和六〇年度 八円八六銭

(5) 昭和六一年度 七円八九銭

(四)  以上によれば、被告は、昭和五七年度ないし昭和六一年度に原告がイ号製品及びロ号製品を販売したことにより、次のとおり得べかりし利益の喪失による損害を被つたものということができる。

(1) 昭和五七年度 一三二五万二五八四円

9.33×1,420,427=13,252,584

(2) 昭和五八年度 一五二二万七九三一円

9.30×1,637,412=15,227,931

(3) 昭和五九年度 一二七〇万四〇〇二円

8.91×1,425,814=12,704,002

(4) 昭和六〇年度 九四五万三四四二円

8.86×1,0666,980=9,453,442

(5) 昭和六一年度 七八九万円

7.89×1,000,000=7,890,000

(6) 合計 五八五二万七九五九円

3  原告は、昭和五九年二月一七日以前の不法行為についての損害賠償請求権は、被告が損害及び加害者を知つてから前記昭和六二年二月一八日付請求の拡張を行うまでに三年を経過しているので時効によつて消滅したと主張するので、検討する。

成立に争いのない甲第一六、第一七号証及び弁論の全趣旨によれば、被告は、昭和五九年二月一五日繊研新聞に謹告と題し、原告の製造、販売する芯地が本件特許権を侵害するものである趣旨の広告をし、同年三月一〇日には同趣旨の手紙を得意先に送付した事実が認められる(ただし、右広告及び手紙では、原告製品の編組織は示されていない。)。しかし、証人濱川正秋の証言によれば、原告は、当初イ号製品、ロ号製品と異なり、耳様の柔軟な編組織を芯地の両側辺に付加した構造のものを製造、販売していたことが認められ、また、被告が昭和五九年六月二九日に提起した乙事件訴訟の訴状では、本件特許権の侵害品たる原告の製造、販売している芯地として右旧製品のみが記載されていたこと、一方同年六月五日に原告が提起した甲事件訴訟の訴状では、原告の製造、販売する芯地としてイ号製品及びロ号製品が記載されていたこと、甲事件の訴状は同月九日被告に送達されたこと、被告は昭和六〇年三月二〇日付訴の変更申請書により、差止請求の対象たる原告が製造、販売している芯地をイ号製品及びロ号製品に変更したことは、当裁判所に顕著である。右事実によれば、前記広告及び手紙を出した時点では、原告が製造、販売している本件発明の侵害品である芯地は耳様の柔軟な編組織を芯地の両側辺に付加したものであると認識しており、これと異なるイ号製品及びロ号製品を原告が製造、販売している事実を知つたのは、早くても甲事件の訴状が被告に送達された昭和五九年六月九日頃であると推認される。被告が甲事件訴状の送達より前から原告によるイ号製品、ロ号製品の製造、販売を知つていたことを認めるに足りる証拠はない。

しかして、前記請求の拡張がなされたのは昭和六二年二月一八日であるから、被告主張の損害賠償請求権の時効の進行は、すべて中断したものというべきである。

よつて、原告の消滅時効の主張は失当である。

4  以上によれば、原告は被告に対し、不法行為による損害賠償として金五八五二万七九五九円及びこれに対する不法行為後である昭和六二年二月一九日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

(結論)

七以上の次第で、原告の甲事件請求は、いずれも理由がないから棄却し、被告の乙事件請求は、すべて理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官露木靖郎 裁判官小松一雄 裁判官青木亮)

別紙、別図<省略>

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